簡単な自己紹介とこのブログについて

西日本の大学で専任教員をやってます。専門領域は人文科学(英語圏文学・文化)。同じ文学系の研究者でも、たとえば日本文学・国文学が専門の人ならば、異字体や合略仮名などを表示させるために、コンピュターに特殊な設定や拡張をほどこしたり、独文や仏文が専門ならば、ウムラウト、アクサンなどの表示のために、ワープロ専用機が全盛の時代から、これらの文字を出すための努力をされてきたと思います。しかし、英語圏文学の研究者の場合は、なんの設定もしなくても基本的にはデフォルトでワープロソフトなどを使うことができるので、執筆のツールに関する意識があまり高くはありません。実際僕の周囲の同僚、同業者も、そのほとんどが、Microsoft Wordをさして不満も感じずに使っているという、僕にとってはおぞましい、信じられない状況です。

もちろん、学者にとっては、研究成果のアウトプットがすぐれてさえいれば、そのために使うツールが何であってもかまわないわけで、むしろツールの整備が目的化してしまい、論文を書かないという状態は本末転倒です(これは僕自身が陥りやすい状況なので自戒をこめてます)。でも、あの使いにくいWordを我慢して使って論文を書くということには、個人的にはどうしても耐えられないので、それに代わる研究で使うツールの工夫をしているのですが、周囲はそういうことには関心が薄いので、誰に言うでもなく、半ば個人的な趣味として、人文系研究職の仕事ハックをあれこれ試してきました。

その中でも特に、後述するEmacsについて、このようなブログを立ち上げて発信しようと思ったのは、自分のための備忘録が最大の目的なのですが、加えて、人文科学系の研究者、院生、学生などで、僕と同じように研究ツールの現状に不満を感じ、工夫の必要性に迫られている方々が、たとえ少数にせよいらっしゃるのであれば、その方々と情報共有をするのもいいのでは、という思いがあったからです。世界的に人文科学研究(いや、学問研究全般と言ってもいいのかもしれません)が危機的な状況に瀕している現在、旧来の方法論では対応できなくなりつつあり、多くの研究者がそれを意識しているはずですが、具体的な対策への意識をもっている人はいったいどれくらいいることか…。日本の多くの大学では、研究時間の確保さえ難しくなっているのに。

そんな中でも、文学研究者なるもの、手書きでコリコリとノートをとり、明窓浄机、読書と論文執筆に勤しむ(ただしこの時はWordを使うという…)のが正しいあり方、という傾向が今でも残っているのは事実で、僕が簡単なデータベースを作ってそこにいろんなデータや研究書からの抜き書きを放り込み、必要に応じて情報を取り出してアウトラインを作り、論文を書くということをやっていると、「ハイテク(←死語やろ)なんだね〜すごいね!」と、完全に揶揄と嘲笑が入り混じってる口調で言われるのがおちです。複雑かつ精妙な文学の世界にはコンピュータなど役に立たん!というのが、こういう方々の意識の中にあるのでしょう。考えるための準備と土台作りのためにコンピュータを使っているだけで、実際に考えているのは僕なのに…。もっともこういう意識は、実は、コンピュータ全般に関して自分がついていけていない、遅れているという、ある種のコンプレックスの裏返し(あるいはこじらせ)という側面があるのは否定できませんし、僕自身もそれを共有しています。

というわけで、このブログは、そのようなコンプレックスをかかえていることを自認したうえで、主にプログラミングに使われるエディタであるEmacsを人文科学系でも使えるようにあれこれ設定し、少しでも効率的でストレスフリーなツールにするための「格闘」の記録をメインとし、その他、役立ちそうな研究ツールについてや、研究方法そのものに関する雑感なども書いていければと思っています。

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